まだまだ猛威をふるっているコロナウィルス。昨年前半、各州が一斉にロックダウンを行い、一夜にしてニューノーマル、ウィズコロナの企業運営へシフトしなければいけなくなりました。
ニューノーマル、ウィズコロナの中、企業運営していくということは、どういうことなのか、色々なケースを見ながら税務の観点からご説明していこうと思います。
ケース1:在宅勤務
まず、一番大きなニューノーマルといえば、在宅勤務ではないでしょうか。ロックダウンにより外出自粛となり、従業員は家で仕事をしなければいけなくなりました。会社としては、従業員が家で働けるようITシステムを整えたり、従業員の自宅の勤務環境を整える手伝いをしたりしたのではないかと思います。ニューノーマルな働き方にも慣れ、一安心となるかと思いきや。。。
今までは、会社に来て勤務していた従業員が、他州で勤務すると、税務面で思わぬ落とし穴があるかもしれません。
- 給与税
州税の源泉
個人の給与から源泉している州税は、どこの州の税金を源泉していますか?
源泉税の支払に関しては、各州異なったルールがあります。従業員の居住州での源泉、勤務州での源泉。正しい州の税率で従業員の給与から税金を源泉し、正しい州へ納税しておかなければ、従業員が個人確定申告をする際に、州税未納税となり、未納税罰則金の対象になりかねません。州のルールをきちんと確認し、正しい州へ納税しておきましょう。
失業保険税
失業保険税は、勤務地の州へ支払います。在宅勤務で従業員が色々な州で勤務していると、各々の州で失業保険税が発生することもありえます。州のルールをきちんと確認して、正しい州へ納税しておきましょう。
- ネクサス問題
州と企業との間に「事業関連性(ネクサス)」があれば、州はその企業に対して課税する権利があります。ネクサスの判定は、各州異なる判定基準を設けています。従業員の勤務地というのも大きな判定要素となります。今まで会社に来て勤務していた従業員が、会社の所在州とは異なる州で在宅勤務をすることにより、その州で法人所得税や売上税の申告義務が発生することもあります。
今回のパンデミックによる一時的な在宅勤務に関しては、特例としてネクサス判定には影響しないルールを設けている州もありますが、在宅勤務している従業員が多州に点在している場合は、各州のルールを確認し、納税を開始する必要があるかもしれません。
また、ネクサスがあると判定され、その州でビジネスを行っていると判断されると、その州で事業登録をしたり、州や地方自治体によっては事業許可書をもらわなければいけなかったり等ありますので、従業員に在宅勤務を許可する際には注意が必要です。
ケース2:従業員やその家族がコロナ感染
これだけコロナが蔓延してると、従業員またはその家族がコロナに感染したというケースも出てきているのではないかと思います。コロナ感染により隔離されており、在宅勤務も難しい場合でも、FFCRA (家族第一・新型コロナウィルス対応法)により従業員は守られていて、従業員数が500人以下の企業は、隔離期間中は10日間有給休暇を付与しなければいけなかったり、学校や保育園の閉鎖などで勤務できる状態でない従業員にも有給休暇を付与しなければいけなかったりします。この対応法は、もともとは2020年12月31日までが対象期間となっていたのですが、対象期間が2021年3月31日まで延び、また有給休暇の付与は義務であったのですが、任意に変更になりました。有給休暇として支払う給与額には上限があり、従業員本人がコロナ感染し隔離されている場合は、1日あたりの給与上限は$511で10日間の上限が$5,110。家族がコロナ感染し、看病している場合や、コロナにより学校や保育園が閉鎖になり勤務が難しい場合は、1日あたりの給与上限は$200で10日間の上限は$2,000。また後者の場合は、給与全額支給ではなく、通常給与の3分の2の支給となります。
この対応法により支払った給与額と同額を税額控除するという形での救済措置が企業側には用意されています。この税額控除は、給与税の企業負担分の社会保障税に対する税額控除となりますので、該当する給与を従業員へ支払った場合は、給与税申告書上で税額控除を申請して下さい。
ケース3:パンデミックにより売上が激減した
外出自粛やロックダウンにより、製造ラインを止めなければいけなかったり、営業活動ができなかったり、需要が激減し売上が落ち込んだ企業もたくさんあるのではないでしょうか。そういった企業向けの主な救済措置をまとめます。
- PPP(Paycheck Protection Program)ローン
そのような企業への救済措置で一番大きいのがPPP(Paycheck Protection Program)ローンでないかと思います。従業員の雇用維持のための運転資金に対するローンで、条件を満たせば返済免除となるローンです。また、返済免除となっても税務上で所得認識する必要もなく、また、このローンを使って支払った雇用維持のための費用も損金算入できます。ローンは取引先銀行を経由して申請する必要があります。
- ERC (Employee Retention Credit)
売上が激減した企業を対象に、対象となる従業員一人あたり給与上限$10,000の50%までを給与税の税額控除として控除申請ができます。また、こちらも昨年12月末に更新があり、当初、こちらの税額控除は2020年に支払った給与のみが対象であったのですが、支払期間を2021年6月30日まで延期しました。また、税額控除額も給与上限$10,000の70%まで申請可能としました。さらに、更新前はPPPローンを受け取った企業はERC対象とはなりませんでしたが、今回の更新で、PPPローンを受け取った企業もERC税額控除を申請できるようになりました。ただし、PPPローンにより支払われた給与はERC税額控除対象外となります。
- 繰越欠損金の繰り戻し
欠損金の繰り戻しは、税制改正により撤廃されました。しかし、コロナ対策法の一貫として、2018、2019、2020年の欠損金は5年遡って繰り戻し可能となりました。また、税制改正により欠損金を利益が出ている年に充当する場合、課税対象所得の80%までしか充当できないということになっていましたが、その上限も一時的になくなりました。税制改正で法人税率が最大34%(累進課税)から一律21%に下がったので、2018、2019、2020年に欠損金がある場合、法人税修正申告をし、5年遡って欠損金繰り戻しをすると、欠損金を繰り越すより減税となるかもしれません。
ケース4:助け合い
新型コロナウィルスにより、多くの個人・企業が犠牲になっています。このウィルスに立ち向かうには、助け合いが大切です。最後に、助け合うという気持ちを援助するものをご紹介します。
- 飲食代の100%控除
新型コロナウィルスより、飲食産業が大きなダメージを受けました。飲食産業をサポートするため、法人税申告書で控除ができる食事代の控除額が多くなりました。
通常、法人税申告書では、飲食代は50%までしか控除可能ではないのですが、2021年2022年は、飲食代は100%控除が可能になりました。
- 寄付
通常、法人税申告書では、寄付控除は課税対象所得の10%までです。ですが、この10%が25%まで引き上げられました。
個人でも$300(夫婦合算申告の場合$600)まで税控除が取れます。
対象年度は2020年と2021年です。
新型コロナウィルスは、私達の生活に大きな変化をもたらしました。ニューノーマル、ウィズコロナの生活に慣れて来た頃ではありますが、皆で助け合いながら、安全に健康に企業運営をしていきましょう。
レック公子 (Naoko Lech)プロフィール:Lechはグローバル企業・大手金融機関での経験を経て、2008年CDHへ入社。以後、CDH税務チームの国際税務プリンシパルとしてクロスボーダーで活躍する企業・個人へのコンサルティング・コンプライアンス業務を担当する。