2024年4月から、日本で不動産を相続した際の相続登記が義務化されました。これにより、相続した不動産の名義変更を3年以内に行うことが法律で定められ、過去に相続した不動産も対象となり、2027年3月末までに手続きを完了しなければなりません。この背景には、所有者不明土地の増加という深刻な問題があります。本記事では、相続登記義務化のポイント、よくある勘違い、そしてアメリカ在住の方々が特に注意すべき税務上の問題について解説します。

所得者不明土地問題とは?

日本では、相続登記が任意であったため、相続後も名義変更が行われず所有者が不明な土地が増加してきました。2016年に行われた政府の調査・研究会報告によると、日本では所有者が不明な土地が全国で広範囲に存在しています。その調査によれば、登記簿などから所有者が直ちに判明しない土地(所有者不明土地)が全国で約2割に上ると推計されています。面積に換算すると、その所有者不明土地は約410万ヘクタールにも及び、九州全土の面積を上回る規模になります。これは相続登記の未了などが原因で、誰が管理すべきかわからないまま放置されている土地が相当数存在することを示しています。

今後も高齢化に伴う大量の相続発生や登記未了の連鎖が続けば、所有者不明土地の面積はさらに増加すると予測されています。所有者不明土地問題研究会の試算では2040年にはその面積が約720万ヘクタールに達する可能性が指摘されています。この広さは北海道本当の面積に匹敵する規模で、日本の国土の5分の1に当たります。このように所有者不明土地の問題は、土地の有効活用や公共事業の推進に大きな障害となるのです。

相続登記義務化のポイント

これを解決するために、2024年4月から相続登記が義務化されました。主なポイントは以下の通りです:

対象:土地・建物

申告期限:相続を知った日から3年以内。遺産分割協議が成立した場合は、その日から3年以内。過去の相続も対象で2027年3月末までに手続きが必要

罰則:10万円以下の過料。正当な理由があれば猶予有り(相続人が多く手続きに時間がかかる、遺産の範囲について争いがある、など)

この法改正により、所得者不明土地の増加を防ぐことが期待されています。

 

よくある勘違い

相続登記をしないまま放置している人の中には、「固定資産税の納付書が自分の名前で届いているから、登記も完了している」と誤解するケースがあります。しかし、固定資産税の納付書の送付先は、市市町村に届け出ることで変更可能であり、登記簿上の名義とは直接関係ありません。そのため、納付書が自分の名前で届いていても、登記が完了しているとは限らないのです。この誤解により、登記を怠ったまま放置すると、将来的に権利関係が複雑になり、売却や相続手続きで問題が生じる可能性があります。「税金を払っている=名義が自分になっている」わけではないので、必ず法務局で正式な登記手続きを行いましょう。

アメリカ居住者への要注意

日本で相続が発生した場合、米国税務上の居住者は、日本で相続税を支払ったからといって安心してはいけません。アメリカでは、アメリカの非居住者(日本在住の親など)からの相続や贈与で$100,000以上を受け取ると、IRSへの報告義務があります。具体的にはForm 3520 (Annual Return To Report Transactions With Foreign Trusts and Receipt of Certain Foreign Gifts)という書類を提出しなければなりません。この申告を怠ると、罰則が課される可能性があるため、日本で相続税を支払ったかといって安心せず、アメリカでの税務申告も忘れずに行いましょう。

 

おわりに

相続登記の義務化や所有者不明土地問題、そして国際的な税務申告など、クロスボーダー民の相続に関する手続きは複雑で多岐にわたります。日本とアメリカの双方の法律や税制を理解し、適切に対応することが求められます。不明な点や不安がある場合は、専門家に相談し、早めに対策を講じることが大切です。

 

出典:

法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html

一般財団法人 国土計画協会「所有者不明土地問題研究会

最終報告概要」https://www.kok.or.jp/project/pdf/fumei2_01_13.pdf

Form 3520, Annual Return To Report Transactions With Foreign Trusts and Receipt of Certain Foreign Gifts: https://www.irs.gov/forms-pubs/about-form-3520

 

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ハラ 基江

CDH会計事務所Cross-Border Manager

CDHクロスボーダーコンサルティングチームは、日米に家族や資産を持つ方々の国際税務をサポートしています。確定申告、二重国籍者の税務、海外資産報告、相続・贈与、離婚、永住権や市民権の取得・放棄、出国税など。無料オンライン面談予約は下記ウェブサイトから。

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