クロスボーダーライフをサポートする
多くの方が、子供さんと共有名義の資産をアメリカに持ちます。例えば、コンドミニアムを息子さんにあげたいので、共同名義にする。投資や、銀行口座を息子さんと共同名義にする。良く聞く話です。共同名義の資産を残されたままで、日本に帰国されます。
共同名義つまりJoint Accountとは、一人の所有者が亡くなっても、もう一人の所有者にも資産の所有権がありますので、遺産検認作業(Probate)を通らなくて済む仕組みであり、一見良くできているように思えます。しかし、亡くなられた方が米国非居住者の場合は、状況が大きく変わります。これだけの時間がかかるのだという点を理解してもらいたいと思います。今回は、この点に関してご説明します。
1)資産が6万ドル以上ある場合
米国に残してきた資産が6万ドル以上あり、本人が死亡した場合は、遺産税の申告の義務があります。6万ドルは、米国非居住者の非課税枠です。Form 706NAをファイルして、もし遺産税の支払いがある場合は、IRSに支払いを済ませます。するとIRSのWebsite[i]には6ケ月から9ケ月で、Form 5173と呼ばれるFederal Transfer Certificateが発行されると書かれています。このフォームが非居住者が正しく納税義務を果たしたという証明であり、このフォームを資産の管理人などが、金融機関などに送ることで、初めて金融機関は保管されている現金、投資などを相続を受ける人に所有権を移します。このフォームがなくて、資産を移動させて、遺産税の負債が生じたときに、金融機関に負債を支払う責任が生ずるリスクがあるからです。
Form 706NAは本人が死亡してから9ケ月以内にファイルしないといけない税務書類です。そして、Form 5173が届くまでに、さらに数か月かかります。現在はコロナの影響でIRS自体の動きがとても遅くなっていますので、一年くらいかかるかもしれません。そうしますと、ご本人が亡くなってから2年くらいたたないと資産の移動ができないということなのです。大変長い期間になってしまいますね。
ご本人はJoint 口座だから簡単だろうと思われていたかもしれませんが、これが実は大変なプロセスになってしまうのです。
2)資産が6万ドルない場合
資産が6万ドルない場合は、706NAの提出は求められません。そのかわり必要書類[ii]をIRSに提出することで、Form 5173を受け取ります。必要書類とは、故人の遺言であったり、相続税の申告書、死亡証明書などです。これらをIRSに提出することで、Form 5173を受け取ることができて、資産の移動が初めてできるわけです。Form 5173がプロセスされる期間は数か月で変わりません。
3)煩雑な処理を避けるために
どのようにしたらこのような事態を避けることができるのでしょうか?
帰国前に子供たちに資産を贈与をしてしまうのもひとつの方法です。正確に書きますと、帰国される年の前の年、つまり通年アメリカの居住者ある年にされると米国居住者としての生涯非課税金額の制度(2021年では$11,7ミリオン)を利用できます。ただし贈与の金額が1万5千ドルを超えた場合は、贈与税の申告書をファイルしないといけません。
あるいは、トラストを作成して、将来子供たちが資産を受け取れる仕組みを作っておくのも一案です。こちらはトラストを専門にする弁護士にご相談くださいませ。ご自身の財産ではなく、アメリカにあるトラストが持つ資産であれば、簡単に資産を動かすことができると思い売ますし、それが、トラストの目的でもあります。
4)最後に
この記事は、共有名義を持つことのリスクを説明するために書きました。共有名義でなくとも米国非居住者の資産を他人に移動する場合は、Form 5173 が必要になると考えられて行動されるのが安全だと思います。また金融機関や、不動産業者に、自分が亡くなったときの手続きをしっかり聞いておき、その場合の手順を家族に連絡しておくことも大変有効な行動だと思います。こちらも忘れないでいただきたいと思います。
CDHでは米国在住の個人の税務申告作成のサービスを行う傍ら、これらの人たちのさまざまな問題点、疑問点を解決、説明すべく日々努力しております。またこれらの人たちが抱える問題は日米の税法をはじめ、移民法、生命保険、リタイアメントのルールなど複雑、多岐にわたります。この記事は複雑な税法や、複雑な規制をできるだけ簡単にポイントだけを理解してもらう目的でお伝えしています。したがって例外もたくさんあります。実際にアクションを取る場合は、必ず税務・法務などの専門家と相談をしてください。
なおこの記事に関するご質問はお気軽に藤本光まで。[email protected] YouTubeでも同じ内容を説明しています。 CDH会計事務所で検索してみてください。また無料相談も行っています。こちらのリンクからご予約ください。https://outlook.office365.com/owa/calendar/[email protected]/bookings/
またCDHの情報満載ニュースレターのご購読を希望の方はhttps://www.cdhcpa.com/login/からお申込みください。
[i] https://www.irs.gov/businesses/small-businesses-self-employed/transfer-certificate-filing-requirements-for-the-estates-of-nonresidents-not-citizens-of-the-united-states
[ii] https://www.irs.gov/businesses/small-businesses-self-employed/transfer-certificate-filing-requirements-for-the-estates-of-nonresidents-not-citizens-of-the-united-states