第一次トランプ政権下の2017年に成立した税制改革法(TCJA: Tax Cut and Jobs Act)は、個人および企業向けの税法に大きな変更をもたらしました。しかし、TCJAの多くの条項は2025年の申告を最後に期限が切れるため、納税者にとってはその後の税制が不透明な状況です。新たな共和党主導の議会の下で、税制改革案が議論される中、これらの条項の延長や修正が提案されています。今回は、2025年に期限が切れる主要な個人の条項についてお話しします。

 

減税率:TCJAによる軽減税率はほとんどの納税者に利益をもたらしました。米国は税率が段階的に上がる累進課税制度のため、最高税率が39.6%から37%に引き下げられたことにより、金額的に最も恩恵を受けたのは主に高所得者といえるでしょう。この軽減税率は現在のところ2025年まで適用で、2026年からはTCJA前の税率に戻る予定です。

 

標準控除(Standard Deduction:米国では標準控除と項目別控除の二種類の控除方法があり、通常はどちらか多い方で申告します。標準控除は固定の金額が控除されます。一方、項目別控除は実際に発生した経費(医療費、寄付金、住宅ローン金利など)を基に控除を申告します。2026年以降は標準控除額が大幅に減少する予定です。現在、納税者の約10%のみ項目別控除(Itemized Deduction)を行っていますが、標準控除が減少すれば、項目別控除を選択する納税者の割合が増えることが予測されます。納税者は、2026年に項目別控除が標準控除額を超える可能性がある場合、項目別控除に該当する支払いを2025年ではなく2026年に支払いをすることで節税効果も見込めるかもしれません。

 

個人控除(Personal Exemption:標準控除の減少に対して、2026年には個人控除が復活することで若干税負担が緩和されることが期待されています。

 

雑損控除(Miscellaneous Itemized Deductions:こちらも標準控除の減少に伴い、税務申告手数料や投資関連費用などが控除される、雑損控除が2026年に復活する予定です。しかし控除には調整後総所得(Adjusted Gross Income)の2%を超える金額が必要となります。

 

項目別控除の段階的縮小:納税者の所得が一定額を超えると、項目別控除額が段階的に減少し、最終的には完全に控除できなくなります。この仕組みは、所得が多いほど税控除が少なくなるように調整されています。2026年に再開される予定です。

 

州および地方税控除の制限:州および地方税の控除上限は、2025年に期限が切れ、10,000ドル(夫婦別申告の場合5,000ドル)の制限が2026年以降撤廃される可能性があります。

寄付控除:2026年の申告から寄付控除の上限が調整後総所得の60%から50%に戻る予定です。

 

住宅ローン金利控除:2026年の申告から100万ドルまでのローンに対する利子が控除できるようになります。現在は75万ドルまでのローンの利子しか控除されません。

 

ホームエクイティローン金利控除:住宅の価値を担保にして融資を受けるホームエクイティローンの金利控除はTCJAにより一時的に停止されていましたが、2026年からは10万ドルまでのローンに対する利子が控除できるようになります。

 

引越し経費控除:TCJA前は一定の条件を満たす場合に、項目別控除の一部として引越しにかかった費用を所得税の控除として差し引くことができました。現在は軍のメンバーのみに適用されていますが、一般の引越し経費控除は2026年に復び始まる予定です。

 

子供税額控除:現在2,000ドルの子供税額控除は、議会が何もしなければ2026年には1,000ドルに減額される予定です。2024年に検討された与野党の共同税制案では、ヴァンス副大統領は5,000ドルの子供税額控除を言及しています。しかし、トランプ大統領は、TCJAの延長案の一環として現在の2,000ドルの子供税額控除を継続することを除いて、この問題には言及していません。

 

代替ミニマム税(Alternative Minimum Tax:一定の税額を下回ることがないように設定された最低税額のことです。通常の税制では、様々な控除や免除が適用されて課税所得が減少することがありますが、代替ミニマム税は、これらの控除や免除を一部制限し、最低限支払うべき税額を設定する仕組みです。主に高所得者が多くの控除を受けて税金を減らし過ぎないように、最低限の税額が設定されています。TCJAにより代替ミニマム税の課税基準が大幅に引き上げられ、同控除額も増加したため、影響を受ける納税者が限られていましたが、2026年からはTCJA以前のより広範なレベルに戻ります。

 

相続税および贈与税の控除額:現在のところ、相続税および贈与税の控除額は2026年に半減する予定です。一部の相続プランナーは、期限が切れる前に2024年と2025年に多額の贈与を行うよう裕福な顧客に助言する動きも見られましたが、選挙後、現在の高い控除額の延長がより現実的であるという見方が強まりました。

 

このように、TCJAによって導入された多くの税制が2025年の期限を迎えることにより、納税者に不確実性をもたらしていることが浮き彫りになりました。来年以降の税負担がどのように変化するかを注意深く見守る必要がありそうです。次回は2025年に期限が切れる主要な法人税に関する条項についてお話しします。

 

記事に関するご質問は、柴原 舞([email protected])まで。CDHでは米国在住の個人の税務申告作成のサービスを行う傍ら、これらの人たちのさまざまな問題点、疑問点を解決、説明すべく日々努力しております。またこれらの人たちが抱える問題は日米の税法をはじめ、移民法、生命保険、リタイアメントのルールなど複雑、多岐にわたります。この記事は複雑な税法や、複雑な規制をできるだけ簡単にポイントだけを理解していただく目的でお伝えしています。したがって例外もたくさんあります。実際にアクションを取る場合は、必ず税務・法務などの専門家と相談をしてください。

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