法人州税に、Voluntary Disclosure プログラムがあるのはご存知ですか?Voluntary Disclosure プログラムは、Voluntary Disclosure Agreementを州と結ぶことにより進められるため、よくVDAと省略されます。まずVDAについて説明する前に、州税はどのような基準で課税されるのかを見ていきたいと思います。

州税を語るのにかかせないのがネクサスの概念です。ネクサスとはその州と企業の事業活動の関連性のことをいいます。このネクサスが認められると、州が課税権を行使することができます。ネクサスの定義は州によって異なりますが、多くの州ではオフィスや従業員の存在はもちろん、企業がその州内でサービスを提供していたらネクサスが発生すると定義されています。機械の据付作業や修繕などもサービスに含まれます。

企業が、その州にネクサスがあるにも関わらず法人登録をせず税金を申告していない場合に、州がその企業のネクサスを確認すると、州は罰則はもちろんネクサスが発生した年にまで遡って課税することができます。VDAとは、州からネクサスがある事を指摘される前に、ネクサスが存在したことを自発的に開示し、州が指定する一定期間、過去に遡って申告すると、申告や納税が遅延したことによる罰則が免除されるというプログラムです。VDAをすることによりVDA期間より前の申告については、たとえネクサスの存在があったとしても州から問われることはなくなります。VDA期間も州によって異なりますが3年~4年が多く見られます。ただし、VDAでは罰則は免除されますが、税金が発生してから納税までの利子は支払う必要があります。

VDAの種類には所得税(Income Tax)と売上税(Sales Tax)がありますが、所得税のVDAは節税効果も見込めるかもしれません。州の所得税は連邦で算出された課税対象所得を各州に割り当てて計算されます。この割合はApportionmentと呼ばれ、算出方法は州によっても異なりますが、多くの州がその州への売上と総売上の割合です。Apportionmentを連邦で算出された課税対象所得に掛けたものが州の課税所得となります。また、在庫、固定資産、賃貸がどの州に存在するかの資産の割合や給与の割合もApportionmentの計算に含む州も見られます。例えばカンザス州では売上の割合、資産の割合、給与の割合の平均がApportionmentとなります。この場合、資産や給与がその州にない場合、売上の割合の1/3がApportionmentになることになります。一方でフロリダ州のように、売上の割合をより多く加味するため、売上の割合を2倍として計算し、さらに資産の割合と給与の割合をたして4で割った数字(売上の割合を2倍考慮した際の平均)をApportionmentとしている州も多々あります。企業は基本的にネクサスのある州にしか所得税を申告をしないため、売上はあるのに申告はしない州が出てきます。これらの州への売上は企業の本社が存在するHome StateがThrowbackルールを採用している州かどうかで取り扱い方法が異なります。例えば弊社本社のあるイリノイで州はThrowbackルールを採用しおり、その名の通り、申告していない州への売上をすべてイリノイ州へThrowbackし、イリノイ州の売上として報告します。一方でミシガン州はThrowbackルールを採用しておらず、ミシガン州がHome Stateの場合、申告していない州への売上はミシガン州へ加算して報告する必要はありません。(ただし他州への申告はなく、ミシガン州のみしか申告していない場合は連邦課税所得のすべてがミシガン州へ割り当てられます。)VDA申告は今まで申告していなかった新しい州への申告となるため、Throwbackをしていた州の売上がその分減ることになります。Throwback州へは修正申告をし、還付を申請することになりますが、Throwback州の方がVDA申告をした州より税率が高い場合はVDA申告で納める税金より、多くの還付金が返って来る可能性もあります。今後の申告でも税率が少ない州に申告していることにより節税効果は望まれます。もしHome Stateがミシガン州のようにThrowbackルールを採用していない州で、売上を調整する必要がなく、修正申告で還付申請しない場合でも、州税と利子は連邦の法人税申告より控除されるため、連邦の課税対象額がその分減少することになります。

VDAはコンプライアンスの意味でもとても重要ですが、所得税のVDAの場合、このように節税対策にもなります。今回は主に所得税についてご紹介しましたが、前述の通り多くの州が売上税のVDAプログラムも提供しています。売上税のネクサスは所得税とは異なるのでご注意下さい。また、州によっては所得税を申告し始めることにより、売上税を徴収する必要がなかったとしても、売上税の申告義務も発生します。VDA申告については様々な観点から考慮が必要なため、VDAプログラムにご興味のある方はぜひ弊社、または担当の会計士さんとご相談下さい。

記事に関するご質問は、柴原 舞([email protected])まで。CDHでは米国在住の個人の税務申告作成のサービスを行う傍ら、これらの人たちのさまざまな問題点、疑問点を解決、説明すべく日々努力しております。またこれらの人たちが抱える問題は日米の税法をはじめ、移民法、生命保険、リタイアメントのルールなど複雑、多岐にわたります。この記事は複雑な税法や、複雑な規制をできるだけ簡単にポイントだけを理解していただく目的でお伝えしています。したがって例外もたくさんあります。実際にアクションを取る場合は、必ず税務・法務などの専門家と相談をしてください。

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