今回はIRSが勝ち!
コカ・コーラとIRS が移転価格について税務裁判で戦っていたのはご存知ですか?少し前になりますが、昨年11月に税務裁判所はIRSの主張を認める裁定を下しました。
背景:
米国コカ・コーラ本社は、トレードマーク、商品名、ロゴ、特許、フォーミュラ、独自の製造プロセス等、数々の無形資産を保有しています。コカ・コーラの海外子会社(サプライポイントと呼ばれています)は、これらの無形資産を使って飲み物の濃縮液を作り、ボトル詰めを行う非関連会社に販売します。ボトル詰め会社は、私達が普段飲んでいる飲み物の形にし、卸業者や小売店に販売します。サプライポイントは米国コカ・コーラに対しロイヤリティ又は配当金を支払っていましたが、この支払い額の算出には1996年に米国コカ・コーラとIRSの間で合意した方法が採用されており、1987年から1995年の税務期間に適用されるものでした。
米国コカ・コーラは1996年に合意した方法で1996年以降、ロイヤリティ/配当金を受け取っていたのですが、今回の判決ではその方法が妥当ではないと判断されました。
IRS は、1996年の方法は1987年から1995年の期間に適用する方法であり、1996年以降に引き続き使っても良いという取り決めではないため、この税務調査の対象年である2007年から2009年には適用しないと主張しました。そしてComparable Profits Method (CPM)を使い、無形資産に対する支払い額を算出した結果、2007年から2009年の3年間で$90億ドルの課税所得が追加されました。当時の税率である35%を掛けると、$31.5億ドルの追徴課税となります。
もちろん米国コカ・コーラ社は上訴してます。
今回のケースで国際企業が注意すべき点として以下が挙げられます。
- IRSとの取り決めは正式な書面で取り交わし、どの期間に適用されるのかも明確にしておく必要がある。
大企業の場合、IRSとAdvance Pricing and Mutual Agreement (APMA) を結んでいることもありますため、期限切れにならない様に気を付ける。
- ロイヤリティの妥当性はComparable Uncontrolled Transaction (CUT) Methodを用いてロイヤリティの率を比較するのが一般的ですが、CPMを用い利益率も考慮した方がよい場合もある。
最近はデジタルエコノミーに対する税法に注目が集まっていますが、既存の製造業や卸売り業は、まだまだ移転価格リスクにさらされています。移転価格は大企業だけの問題ではありませんので、中小企業の方々も移転価格ポリシーの作成、関連会社間取引の契約書、移転価格調査書の作成を行い、IRSの税務調査が入っても問題ない様に準備する事をお勧めします。
著者:山本陽子
移転価格について質問がある方は、山本陽子[email protected]までご連絡ください。