5月は立夏で夏の兆しが見え始める頃という意味があるそうです。弊社があるシカゴ近郊もだんだん暖かくなってきました。今回は法人代替ミニマム税(以降代替ミニマム税)についてお話ししたいと思います。代替ミニマム税はTax Cuts and Jobs Actにより2018年より廃止されていましたが、Inflation Reduction Act of 2022により2023年度の申告より再び復活しました。対象は過去3年の利益の平均が10億ドル以上の企業ですが、この金額については複雑なルールがあるため、あなたの会社も対象になるかもしれません。

基本的に、代替ミニマム税は2023年度の申告より過去3年の純利益(Adjusted Financial Statement Income, “AFSI”)の平均が10億ドル以上の企業に課せられます。10億ドルの純利益なんてうちの会社には関係ないと思われている方がいらっしゃるかもしれません。この10億ドルという金額ですが、50%以上の株式で繋がっている関連会社がある場合は、その関連会社の利益も合算する必要があります。しかも海外に該当の関連会社がある場合は、上記とは別に特別なルールが設けられています。まずは全世界関連会社の過去3年の平均AFSI利益の合計が10億ドル以上ということ。さらに、米国内関連会社の過去3年の平均AFSI利益と米国外関連会社の米国源泉所得から繰越欠損金を調整しなかった場合の利益の合計が5億ドル以上、という二つの条件があり、両方を満たすと代替ミニマム税対象会社となります。

それではAFSI利益とはなんでしょうか。まずベースとなるのは税務上の課税対象所得ではなく決算書などに記載される帳簿上の純利益です。その純利益に減価償却、税金、関連会社からの配当金、会社で提供している医療保険や企業年金、繰越欠損金など様々な調整を加えたものがAFSI利益となります。

AFSI利益を算出する計算が複雑ということもあり、内国歳入庁は2023年度の税務申告に限りセーフハーバールールを設けました。それは代替ミニマム課税初年度の2023年度の申告に限り、Simplified Methodと呼ばれる簡略化された算出方法を代替ミニマム税対象かどうかを判断する際に使用することが可能というものです。このSimplified Methodを使用する場合、帳簿上の純利益から連邦税のみ調整された金額がAFSI利益となります。ただし、代替ミニマム税判定対象となる金額は、過去3年の平均AFSI利益が10億ドル以上ではなく、5億ドル以上となり、海外に該当関連会社がある場合は過去3年の平均AFSI利益が5億ドル以上、米国内関連会社の過去3年の平均AFSI利益と米国外関連会社の米国源泉所得が5千万ドル以上となり、通常のルールより対象金額が半分に減ります。

法人代替ミニマム税の計算は二段階で、まず50%以上で繋がっている会社のAFSIを合算し、上記の対象金額を超えているかを判断します。超えていなければ代替ミニマム税の対象ではありません。超えている場合は、申告する会社のAFSI利益に15%の税率をかけ、代替ミニマム税金を算出し、通常の課税対象の21%と税金を比較し、どちらか金額の多い方が使用されます。代替ミニマム税対象かどうかを判断する際は関連会社のAFSI利益を合算しますが、代替ミニマム税の課税対象はあくまで申告者である会社のみになります。

このように、法人代替ミニマム税の対象は10億ドル以上と聞くと自分の会社は関係ないと思われる方も多いかもしれませんが、ルールをじっくり紐解いていくと、もしかして自分の会社も対象なんじゃないかと思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。代替ミニマム税のルールも2018年の税法改革同様、米国内ビジネスを多国籍企業より優遇するという傾向が見られます。海外に親会社、またさらにその親会社に親会社がある場合は50%以上の株式で繋がっている関連会社が多いため注意が必要です。海外に関連会社がある場合は、関連会社取引を報告するForm 5472, Information Return of a 25% Foreign -Owned U.S. Corporation or a Foreign Corporation Engaged in a U.S. Trade or Business、海外の関連会社への支払金額が妥当かを報告するForm 8991 Tax on Base Erosion Payments of Taxpayers with Substantial Gross Receiptなど、他の報告義務もある可能性があります。海外関連の報告につきましては、報告をしなかった場合の罰則金が高いため、これを機に一度担当の会計士さんとお話しされることをお勧め致します。

記事に関するご質問は、柴原 舞([email protected])まで。CDHでは米国在住の個人の税務申告作成のサービスを行う傍ら、これらの人たちのさまざまな問題点、疑問点を解決、説明すべく日々努力しております。またこれらの人たちが抱える問題は日米の税法をはじめ、移民法、生命保険、リタイアメントのルールなど複雑、多岐にわたります。この記事は複雑な税法や、複雑な規制をできるだけ簡単にポイントだけを理解していただく目的でお伝えしています。したがって例外もたくさんあります。実際にアクションを取る場合は、必ず税務・法務などの専門家と相談をしてください。

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