米国財務会計基準審議会(FASB)は2016年に現在予想信用損失(Current Expected Credit Loss, 以下「CECL」という)会計ルールを公表しました。このルールは2022年12月15日以降開始事業年度(暦年の場合は2023年1月1日)から適用となります。このルールは銀行や金融機関の財務諸表に大きな影響を与えますが、売掛金や貸付金などがあるすべての会社にも適用されます。では、CECLとはどのようなルールなのでしょうか?今回は新ルール、CECLが売掛金に与える影響について主に説明させていただきます。
現在予想信用損失(Current Expected Credit Losses)とは?
通常売掛金がある会社では売掛金が回収できる見込みが低い場合、貸倒引当金を計上して売掛金から減らす処理をします。この見込みはProbableである場合、つまり回収できない可能性が非常に高い場合のみ貸倒引当金を計上します。また、この回収見込みを見積る際、過去の貸倒率や支払い履歴、また現在の状況(破産を申請した、等)を元に計算されることが多いかと思います。しかし、新ルールのCECLでは貸倒引当金を計算するのに際し、過去の履歴のみならず将来も考慮する必要があること、また、たとえ回収される可能性が低い(Remote)場合でも引当金を見積もる必要があることになっています。例えば、過去に売掛金の回収には全く問題がなく、回収が不可能になる可能性が低いと考えられていたとしても、新ルールでは将来の状況を鑑みて発生すると考えられる損失を見積もる必要があります。
下記が旧ルールと新ルールの主な差異になります。
旧ルール | 新ルール | |
いつの時点で損失を認識すべきか? | 損失が発生する可能性が高い(Probable)場合 | 損失が発生すると予想される場合(可能性が低い場合も適用) |
考慮すべき項目 | 過去の損失及び現況 | 過去の損失、現況、将来の状況や予想(業界の経済予想等) |
単位 | 類似のリスク特性を有する金融資産を集合的に(プールで)評価する必要なし | 類似のリスク特性を有する金融資産を集合的に(プールで)評価する必要あり |
上記「類似のリスク特性を有する金融資産を集合的に(プールで)評価する」という点ですが、具体的にどのように集合的に評価しないといけないかというルールはありませんが、例えば、地理的位置(メキシコにある顧客を集合的に評価する等)や業種別と言った区分で評価することが考えられます。
ここまではCECLとは何か、旧ルールとどう違うのか?を説明してきましたが、では貸倒引当金の計算は具体的にどのように行うべきなのでしょうか?
CECLでの貸倒引当金の計算方法
- 過去の貸倒損失:過去数年間の貸倒損失(引当金ではなく、実際に売掛金の回収ができず、売掛金を減らして貸倒損失を計上した場合)の履歴を確認します。売掛金の滞留表の年齢区分ごとに(0-30日、31-45日、等)で損失履歴を出します。
- プーリング:上記1に対して、類似リスクを特定し、集合します。例えば、アメリカにある顧客とメキシコにある顧客、また自動車業界と電子業界の顧客を分けて年齢区分ごとに損失履歴を算出します。
- 上記2に現在および将来の状況を考慮する:例えば、景気の状況が思わしくなく、失業率が1年で高くなると予想されている場合、この失業率を考慮して貸倒引当率を算出します。
ここで例を挙げます。A社は過去2年間年齢別の貸倒損失の情報を入手し、かつ地理別に分けました。A社と顧客先は同じ業種でこの業種は今後景気が悪くなると見込まれており、失業率も上がると考えられています。この情報から、A社は過去の年齢ごとの損失率のみならず、将来も考慮した比率で貸倒引当金を算出しました(将来も考慮した比率は会社側で見積もった)。
年齢 | 地理 | 売掛金 | 過去の損失率 | 過去の損失で算出した貸倒引当金& | 将来(失業率)も考慮した損失率 | 新ルールで算出した貸倒引当金 |
締め切り前 | アメリカ | $1,900,000 | 0% | $0 | 1% | $1,9000 |
メキシコ | $105,000 | 0% | $0 | 1% | $1,050 | |
0-30日 | アメリカ | $900,000 | 1% | $9,000 | 1.25% | $11,250 |
メキシコ | $55,000 | 0.5% | $275 | 1% | $550 | |
31-60日 | アメリカ | $500,000 | 1% | $5,000 | 1.25% | $6,250 |
メキシコ | $25,000 | 0% | $0 | 1% | $250 | |
61-90日 | アメリカ | $200,000 | 0% | $0 | 0.75% | $1500 |
メキシコ | $35,000 | 0.5% | $175 | 1% | $350 | |
91日以上 | アメリカ | $50,000 | 2% | $1,000 | 3% | $1,500 |
メキシコ | $15,000 | 3% | $450 | 4% | $600 | |
合計 | $15,900 | $42,300 |
上記をご覧いただきますと、新ルールCECLでは過去の損失比率に基づいて計算した貸倒引当金に比べて金額が$26,000ほど高くなっているのがおわかりになるかと思います。
上記のように、新ルールでは貸倒損失が発生する可能性が低い場合であっても引当金を計上する必要があります。しかし、過去に貸倒損失が全く発生しておらず、将来の状況を鑑みても損失が発生する可能性がゼロである、と考えられる場合には引当金を計上する必要はないことにはなっています。ただ、旧ルールと異なり、損失が発生する可能性が低い場合でも引当金を計上する必要がありますので全く引当金を計上しないとい状況は少なくなってくるかと考えられます。
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