税務上の米国居住者は、日本を含めた米国外の金融資産をアメリカ政府に報告しなければなりません。そして、その保有資産の種類や額に応じて申告方法が変わります。TurboTaxなどのソフトで確定申告をされる場合に注意しなければならないのは、ソフトに含まれているフォーム(Form 8938)と、含まれていないフォーム(FinCEN Form 114)があるために、FinCEN Form 114の申告が見落とされがちなことです。たとえば、From 8938でしっかりと申告義務を果たしている人でも、FinCEN Form 114では申告していなかったケースや、Form 8938の提出要件に該当しなかったのでFinCEN Form 114も関係ないと思っていたが、実はこちらは提出が必要だった、というようなケースが見られます。
なぜ、このような問題が起きるのでしょう。それは、米国外の金融資産を開示することがこの二つのフォームの目的ではあるのですが、①ふたつの要件がそれぞれ微妙に異なる、②これらの申告を義務付けている機関が異なる、③提出方法も異なる、といった点で、納税者にとって一元化した申告方法がとりにくいことがあげられます。どちらか一方を提出すればもう一方の提出が免除されるものではありませんので、米国外に金融資産を保有している納税者は、この二つのフォームが存在することを念頭に、自分(あるいは自分の家族)が提出要件に当てはまるかどうかを判断し、提出漏れがあった場合はそれを修正をしていくことが重要となります。
【提出フォーム】
- Form 8938 – Statement of Specified Foreign Financial Assets(特定外国金融資産報告書) FATCA (Foreign Account Tax Compliance Act 外国口座税務コンプライアンス法)に基づく
- FinCEN Form 114 – Report of Foreign Bank and Financial Accounts (FBAR)
【提出先の機関】
- Form 8938 – IRS / Internal Revenue Service (財務省の内国歳入庁)
- FinCEN Form 114 – FinCEN事務所 / the office of Financial Crimes Enforcement Network (財務省の局である金融犯罪捜査網事務所)
【提出方法】
- Form 8938- オンラインあるいは郵送 / タックスリターンと共に提出
- FinCEN Form 114 – オンラインのみ / タックスリターンとは別に単体で提出
【Form 8938とFBARの提出要件】
次のIRSのリンクには、ふたつの提出要件の比較が説明されています。それぞれの要件を確認し、Form 8938またはFinCEN Form 114 (FBAR)、あるいはその両方を提出する必要があるかどうかを判断することが大切です。
https://www.irs.gov/businesses/comparison-of-form-8938-and-fbar-requirements
https://www.irs.gov/pub/irs-pdf/i8938.pdf
https://www.fincen.gov/report-foreign-bank-and-financial-accounts
ポイントは、FinCEN Form 114 (FBAR)は対象が個人ベース、一方、Form 8938は個人ベースではなく、申告形態ベースであることです。
FinCEN Form 114 (FBAR)は、口座保有者それぞれが提出する必要があるため、タックスリターンを夫婦合算申告したとしても、夫婦が個別にFBARを提出する必要がありますし、未成年の子供さんであっても必要となります。そして、ひとつひとつの最高口座残高は$10,000を超えていない場合でも、保有するすべての金融口座残高を合算して期中いっときでも$10,000を超える場合には提出が必要であり、さらに、自分の口座間同士で資金の移動を行った場合は、期中の最高残高がダブルカウントされる状況になりますが、このダブルカウント状態での合算数字を使って要件確認をしなくてはなりません。
一方、Form 8938はタックスリターンの一部であり、Form 1040に添付して提出をするものです。従って、夫婦がそれぞれ提出する必要のあるFinCEN Form 114 (FBAR)とは異なり、Form 8938はタックスリターンが夫婦合算でなされる限り、Form 8938も夫婦単位で報告することになります。
まとめ
- Form 8938とFinCEN Form 114 (FBAR)は、どちらか一方を提出すればもう一方の提出が免除されるものではないので、どのフォームを提出する必要があるのか要件をよく確かめる。
- FinCEN Form 114 (FBAR)の提出は個人ベース、Form 8938は申告形態ベースで行う。
- 要件判断をするための資産額の算出方法、申告に該当する家族の特定を間違えないようにする。
この記事は、複雑な税法や規制をできるだけ簡単にポイントだけを理解していただく目的で提供されています。内容が不確かな場合、実際のアクションを取る際等には、常に税務・法務などの専門家と相談をしてください。
記事に関するご質問は、ハラー基江[email protected]まで。CDH会計事務所では米国在住の個人の税務申告作成のサービスを行う傍ら、これらの人たちのさまざまな問題点、疑問点を解決、説明すべく日々努力しております。弊社のYouTubeクロスボーダーチャンネルではいろいろな内容を取り上げて説明しています。是非ご覧ください。また無料相談も行っています(予約リンク)。