永住権取得の利点と欠点?

クロスボーダー生活者がトクする税務知識

8/10/2020

永住権を取得することでどんな影響があるのだろうか? このトピックを今回は考えてみたいと思う。筆者も永住権を20年くらい保持してから米国の市民権を取得した。つまり自身が通ってきた道である。自らの経験も反映させながら議論を展開してみよう。

1. 利点

ビザで米国で仕事をしている人間にとって、廻りがどんどん転職をするのを見て、大変うらやましさを感じる人は多いと思う。永住権者とは。言ってみれば市民権の前段階であり、米国市民が享受する殆どの機会を獲得することができる。与えられていない機会は、投票や、公務員になったりする機会だけだ。家のローンなどを組む時もビザで滞在する場合よりも容易に組むことができる。

米国には永住権を買う制度もEB-5という制度で存在する。他国でも永住権を買うことができるそうだ。ニュージーランド、オーストラリアなどの国でも買えるようだが、その価格は米国の90万ドルに比較すると遥かに高額の数億円になる。EB-5を使うと

正確に言うと5年くらいでこの90万ドルは手元に戻る仕組みであるのも大変興味深い。国際的にも米国の永住権を容易に取得できるようだ。

永住権を取得して入国する人の数が毎年100万人とも言えるこの権利は、まさにアメリカという国が提供する「機会」を考えれば自然で、かつ米国の「象徴」と言える。

2. 欠点

欠点と呼んで良いのかは疑問だが、いくつかのポイントは理解しておかないといけない。まず永住権者はどこにいても、永住権を放棄しない限りは税務上での米国の居住者である。(正確には、永住権保持の期間が8年未満の場合にこの規制は緩くなる)居住者であるので、全世界の所得が課税対象になり、さらに全世界にある資産の開示が税務申告書上で、金融資産の開示のかたちで要求される。

これが一定の人には大変苦痛になる。前述のEB-5では家族は永住権を取って米国に移住するが、高額の収入を得て、資産がある本人は全世界の所得・資産開示が嫌で永住権を取らない場合がある。

次に永住権を放棄する場合に、一定の条件を満たした場合はCovered Expatriateという範疇になり、出国税などがかかる場合がある。これは全世界の資産の含み益に対してかかる税金であり、一定の富を蓄積した人は、基本的に避けることのできない税金になる。この出国税が嫌なら、永住権を維持し続けることになるが、その場合は米国に税務申告をし続けることになる。

米国居住者を継続する場合は、日米租税条約で年金等の所得は居住地で課税されるという恩典を受けることができず、日米両国に年金等の所得を申告することになる。また日米租税条約では、年金等の支払いの源泉税がゼロと規定されているが、永住権を維持する場合は、年金等を支払う機関は20%などの源泉を行う。

注意しないといけないのは、移民法の永住権は自動的に失効するが、税務上の居住者としての立場は一定の放棄手続きをしないとそのまま継続する。移民法の永住権は半年海外に行っていた場合に、その効力に疑問が生じ始め、一年以上の海外滞在は再入国許可証の制度で二年間を二回程度、つまり合計4年間海外に出ていることができるが、その許可の申し込みには手間がかかり、煩雑である。

3. 全体の趨勢

外務省の統計では、米国に永住権者は二十数万人いると報告されている。実数はもっと多いだろう。

永住権を所持していて、米国に滞在を続けて、米国で死亡する人もいる。永住権は十年間保持していると市民権取得に応募できるので、私のように市民権保持者に移る人もいる。その場合は、永住権はなくなる。市民権を維持して、米国で亡くなるパターンになる。そして最後に日本に帰国して永住権を放棄する人もいる。また永住権から市民権に移して、そのまま日本に帰国する人もいる。この場合は、日本の国籍を捨て米国人として日本に居住する人と、日本の法律では認めてはいないが、二重国籍で帰国する人も多い。

これらの人の数で統計はないが、日本に永住権を放棄して帰国する人が最近多いような気がする。その際の手間、手続きは煩雑であり、時間をかけて計画しないといけない。

4. 結論

永住権を取得する場合は、良く利点と欠点を理解して、慎重に考慮してから決定をすべきである。未来は誰にもわからない。米国がこのまま自由の国、アメリカンドリームを体現できる国であるかは読者の判断しだいである。日本の医療費が安いのがいつまで維持できるのかも、大きな疑問点が残る。莫大な社会保障費用、医療保険費用で日本の国の財政が逼迫しているのは良く聞くニュースである。

一人の人生を決定する大変大きな決断であるから、熟慮してから決定してもらいたい。

 

CDHでは米国在住の個人の税務申告作成のサービスを行う傍ら、これらの人たちのさまざまな問題点、疑問点を解決、説明すべく日々努力しております。またこれらの人たちが抱える問題は日米の税法をはじめ、移民法、生命保険、リタイアメントのルールなど複雑、多岐にわたります。

この記事は複雑な税法や、複雑な規制をできるだけ簡単にポイントだけを理解してもらう目的でお伝えしています。したがって例外もたくさんあります。実際にアクションを取る場合は、必ず税務・法務などの専門家と相談をしてください。

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