日本への帰国を控えて不動産を売却される方もいらっしゃると思います。米国居住者として売却するか、米国非居住者で日本の居住者として売却するかによって税金が大きく変わります。
1.米国居住者として売却する場合
<個人使用の主たる住宅、または年間15日未満の賃貸>
主たる住居の売却は、納税者が以下の場合を除いて納税者の申告書に報告されません。
- キャピタルゲインがあり非課税枠を超える場合
- キャピタルゲインがあり、非課税枠で除外しないことを選択
- 売却によるフォーム 1099-S を受領した場合
<主たる住居とは>
納税者が 2 つの住宅を交互に使用する場合、通常、その年の大半の時間が使用される住宅が主たる住居と見なされます。納税者による資産の使用に加えて、納税者の主たる居住地を決定する際の関連要因には以下が含まれます。
- 納税者の勤務先
- 納税者の家族の主要な居住地
- 納税者の連邦および州の納税申告書、運転免許証、自動車登録証、有権者登録カードに記載されている住所
- 請求書および通信用の納税者の郵送先住所
- 納税者の銀行の所在地
- 納税者が加盟している宗教団体や娯楽クラブの所在地
<非課税枠>
売却前5 年間に 2 年以上の所有権と個人使用テストが満たされている場合、最大 250,000 ドル (夫婦合算申告と特定の生存配偶者申告の場合は500,000 ドル) のキャピタルゲインが非課税枠となります。
但し、夫婦合算申告の場合;
- 所有テスト:夫婦のどちらかまたは両方が、売却前の 5 年間のうち少なくとも 2 年間、住居を所有していなければならない
- 使用テスト: 夫婦二人とも売却前の5年間のうち少なくとも2年間、住居を主たる住居として使用していなければならない
- 頻度制限: 売却日までの 2 年間、夫婦のどちらも、別の家の売却による利益を除外していない
またご夫婦どちらかがお亡くなりになった場合でも、上記の3つのテストを満たしており、死後2年以内に売却された場合には500,000ドルの非課税枠が適用されます。
もし離婚されて共同名義の住宅を売却した場合、上記のテストを満たしていればそれぞれが250,000の非課税枠を適用することが出来ます。
詳細はIRC Sec. 121をご参照ください。
https://www.law.cornell.edu/uscode/text/26/121
<売却益の申告>
課税対象のゲインが非課税枠より大きい場合は、Form 8949 (所有期間が 1 年未満の住宅の場合はPart I、1 年以上の住宅の場合はPart II) に基づいて売却価格、売却費用と取得費用を申告します。
納税者が売却によるフォーム 1099-S を受け取った場合には、フォーム 8949 で完全に除外可能なゲインを申告します。
<売却による損失>
住居の売却による損失は、納税者がフォーム 1099-S を受け取らない限り申告されません。
Form 1099-Sを受け取った場合でも損失は控除できませんが、売却はフォーム 8949 で報告する必要があります。
フォーム 8949 で売却価格、売却費用と取得費用を報告し、該当するコードを列 f に、控除できない損失額を列 g に入力します。
フォーム 8949 (資本資産の売却およびその他の処分) – 損益調整コードを参照してください。
参考:
Selling your home: https://www.irs.gov/pub/irs-pdf/p523.pdf
Form 1099-S: https://www.irs.gov/pub/irs-pdf/f1099s.pdf
Form 8949: https://www.irs.gov/pub/irs-pdf/f8949.pdf
2.日本に帰国後に米国にある住居を売却した場合の課税
日米租税条約により不動産の売却はその不動産の所在国で課税されます。
<日米租税条約第13条>
- 一方の締約国の居住者が他方の締約国内に存在する不動産の譲渡によって所得する収益に対しては、当該他方の締約国に於いて租税を課することが出来る。
日本の居住者は、原則として国内で生じた所得および国外で生じた所得のいずれについても、日本で課税されます。しかし、この租税条約により米国でも課税されることになります。
<グリーンカードを放棄前の売却>
税法上は米国居住者ですので米国での確定申告が必要となります。しかし、既に日本の居住者でもあるので、海外の不動産を売却したことにより得た譲渡益に対しても、国内にある不動産を売却した場合と同様に課税されます(申告分離課税)。米国で支払ったキャピタルゲイン税は外国税額控除を申請することになります。
<グリーンカード放棄後の売却>
米国非居住者が不動産を売却した時には外国不動産投資税法 (Foreign Investment in Real Property Tax Act(FIRPTA) により売却金額(譲渡実現額)に対して10%または15%の源泉徴収を課せられます。FIRPTAの源泉義務は不動産を購入する側にあります。但し、購入する側がある一定の期間居住用として購入し、購入額合計が30万ドル以下であれば課税は免除されます
<米国:Form 1040NRにSchedule Dを添付して申告>
非居住者であっても米国の不動産の売却は米国内事業や取引に実質的に関連する所得(Income effectively connected with a trade or business in the United States)として扱われるため、米国事業実質関連所得としての税務申告が必要です。
- 売却価格からコストとして購入価格・取得諸経費と売却費用を引いて譲渡損益を算出
- 譲渡益がある場合は長期キャピタルゲイン税を計算
- 対象となるゲインが少なければこの源泉徴収税は還付される
但し、米国非居住者であっても売却前5 年間に 2 年以上の所有権と個人使用テストが満たされている場合は、最大 250,000 ドル のキャピタルゲインが非課税枠となります。その非課税枠を超えた場合には売却益に対する長期キャピタルゲイン税として0~20%が課税されます。
<日本:居住用財産の譲渡所得として申告>
日本の居住者が海外の不動産を売却したことにより得た譲渡益に対しては、国内にある不動産を売却した場合と同様に課税されます。長期譲渡所得または短期譲渡所得どちらに該当する場合でも最高3,000万円が控除されます。
長期とは売却した年の1月1日現在で所有期間が5年を超える場合です。
- 長期譲渡所得の税率:15%、住民税5%
- 所有期間が10年を超えた場合の長期譲渡所得の税率:10%、住民税4%
- 短期譲渡所得の税率:30%、住民税9%
但し、この長期譲渡所得の税率は対象が日本の不動産に限られるため米国の不動産の売却は適用することができません。日本では譲渡損失がある場合には損益通算や繰り越し控除が出来る特例があります。米国で支払ったキャピタルゲイン税は外国税額控除の対象になります。
詳しくは日本の税理士にご相談ください。
参考:
FIRPTA
居住者が海外の不動産を売却した場合の課税関係等https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3560.htm
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_3.htm
https://probitas.jp/kokusaizeimu/kojinmuke/realestate_sell/
以上
CDHでは米国在住の個人の税務申告作成のサービスを行う傍ら、これらの人たちのさまざまな問題点、疑問点を解決、説明すべく日々努力しております。またこれらの人たちが抱える問題は日米の税法をはじめ、移民法、生命保険、リタイアメントのルールなど複雑、多岐にわたります。この記事は複雑な税法や、複雑な規制をできるだけ簡単にポイントだけを理解してもらう目的でお伝えしています。したがって例外もたくさんあります。また、お読みになる時点ではすでにルールが変更されているリスクもあります。最新のルールは、下記よりお問合せください。また実際にアクションを取る場合は、必ず税務・法務などの専門家と相談をしてください。
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