今回の記事は、女性に焦点を当て、「今はアメリカに住んではいるが、将来日本へ帰ることも選択肢として残しておきたい」と願うクロスボーダーの日本人女性に対して、税金・資産形成を考えるうえで大切な心構えについてお話しします。結論から先にお伝えしますと、心構えの第一は、自分の寿命は長く、最終的に自分は一人になるかもしれない前提で、第二に、親の介護のために日本への帰国を余儀なくされる可能性も考慮しつつ、第三に、帰った時にスムーズに日本生活をスタートさせられる環境を整えておく、の三つです。
1.先は長い。自分は長寿のカテゴリに入っていることを認識しよう。
長期計画なのです。ビジネスの長期計画といっても10年スパンであるのに、人生の計画はそれ以上です。しかも、自分の体、頭脳も臓器も基本的にはずっと同じものを使っていきます。先立つものはお金、と言われますが、クロスボーダーの女性とってのお金というのは、為替レート、国際間の送金、日米の贈与・相続税、自身のビザや国籍など、複数のファクターが関与します。
ある程度の資産形成をアメリカで行ったと感じるクロスボーダー女性は、「自分は世界的に見ても長寿と認定されているカテゴリーの人間だ」という認識でもって、プランニングすることが大切だと考えます。現在のMarital Statusは関係ありません。長期的視野に立てば、現在の未婚、既婚、離婚、お子さんあり、なし、パートナーの性別、兄弟姉妹の有無等々に関わらず、最終的に生き残っているのは自分かもしれず、周りに誰がいてくれるのかも分かりません。分からないので、今から「お一人様プランニング」です。
日本人女性が長寿ということは周知の事実ですが、実際にデータをあげます。
CIAの発行するWorld Factbook (2022)によれば、日本の平均寿命は世界第4位(一位モナコ、二位シンガポール、三位マカオ、そして四位に日本)で、日本男性81.92歳、日本女性87.90歳となっています。アメリカ人の場合、この資料では世界46位に位置し、米国男性78.36歳、米国女性82.79歳です。
<図1:世界の平均寿命ランキング>
出典:CIA World Factbook, Wikipediaより
また、平均寿命の伸びについて、厚生労働省の図を示します。平均寿命の諸外国との比較は、国により測定基準が異なるため厳密な比較は困難ではあり、日本のデータは平成22年10月1日現在推計人口であり、なかなか古い情報ではありますが、世界的なトレンドとして、この数十年間において平均寿命が伸長していることはうかがえます。
「人生100年時代」は現実です。
日本人女性は、日本に帰ることを選択肢として持つならば、「最終的には自分一人になる」というぐらいの気持ちでお一人様プランニングをし、日米の年金、クロスボーダーの資産移動、これらを取り巻く税金などを念頭にいれるべきだと考えます。
<図2:主な諸外国の平均寿命の年次推移>
出典:厚生労働省
2.突然ありうる。娘の自分が親の介護者になる可能性を考えておこう。
親の介護というのは、突然やってきます。日本と同様、アメリカでも、親の介護を担う子供の経済的負担が大きく扱われています。いわゆる「サンドイッチ世代」といわれる、子育てと親の介護との“サンドイッチ状態”による経済的負担を実体験している世代が存在するのです。
アメリカの大手運用会社T. Rowe Priceの調査によると、子育てをしながら親の介護をし、その介護のためにクレジットカードの借金が増えたり、自分の老後や子供の学費のための貯蓄を親の介護のほうへ充てるという実態が報告されています(『サンドイッチ世代のひずみが子供とそのお金の習慣に悪影響を与える(Sandwich Generation Strain Negatively Impacts Kids and Their Money Habits)』)。
読者の皆さんのなかには、この“サンドイッチ世代予備軍”や、状況下におられる方もいらっしゃるかもしれません。そして、日本でこれが発生する場合には、とても複雑な状況になってしまいます。一時帰国で帰ったつもりが、ずっと日本で過ごすことになる場合も少なくないようです。
日本では、親の高齢期において「親と再同居」をする動向が見られ、親の介護者として、娘、特に「長女」に多く依存している状況があります。また、女性の平均寿命が長いことから、「母親を介護する」期間が長期化(50%以上が3年以上の介護期間)する実態もみられます(国立社会保障・人口問題研究所『社会保障・人口問題基本調査』、明治安田生活福祉研究所「『相続と介護の状況』2015年7月)。
娘である自分がアメリカから応援に駆け付ける場合、ビザ関係で起こりうる問題として、次のような点があげられます:
- 介護が長期化し、最初はReentry Permitを提出したが、再提出が困難。
- アメリカを長期留守にしたために、アメリカ入国時にグリーンカード保持が難しくなる状況に陥る。
- 米国市民権を取得したので、日本での長期滞在が困難になる。
- 必要に迫られてグリーンカード放棄や米国市民権離脱をしなければならなくなる。
- アメリカで十分な資産形成をしてきているので、出国税、贈与税、遺産税、相続税、国際間の資金移動などに関してポテンシャルな問題がでてくる。
また、滞在期間中にしかるべき手続きを取って「日本の居住者」ステータスとなる場合、以下のような点を考慮する必要が出ます:
- 日本の居住者というステータスに切り替わっているために起こるポテンシャルな贈与税
- 日本国外の金融資産の報告義務
- 米国市民権保持者の日本における税制優遇措置
すべてをマッピングして計画することは難しいので、大枠を固めてフレキシブルに対応できるよう体制を整えておくことが大切だと考えます。
3.満を持して帰るために。移行期間をスムーズにしよう。
前述とは反対に、ご自身の意思でもって満を持して日本へ帰国する場合、日本において“実家”と呼ばれる場所があるかどうかは大切なポイントとなります。
ご両親の他界に伴い実家が消失するケースが一般的だとすると、たとえ日本に兄弟姉妹がいたとしても、今までの日本との繋がりが一気に消えてしまう感覚を持たれるかもしれません。実際に、それ以降に日本に訪問する場合、家族親戚を頼らずステイしようとすれば宿泊先を探すでしょうし、自分を異邦人的に感じることもあるかもしれません。しかし、日本に戻るという選択肢を残しておきたいのですから、重要なのは、「日本の住居」です。
実際には、生活空間としての「住居建物Property」の確保もさることながら、極めて重要になるのは、日本における「住所Address」の確保です。「現住所」がないと様々な手続きが滞ります。つまり、「Address」を確保するために「Property」をどうするか、という考え方です。
残念ながら、日本では高齢になればなるほど、家のローンや賃貸物件の審査に通りません。貸してくれないので買わなければならないのにローンは組めない、とすると、住宅をキャッシュで購入しなければならないケースもあります。そして、そのキャッシュはアメリカにある、となれば、資金の国際送金が発生し、為替レートも関わります。さらに重要な点として、健康保険証の発行があります。役所に転入届を出せば健康保険証はすぐに発行されますが、そのためにも現住所の確保が必要です。
将来日本に戻ることを考えたいのですから、日本の住所の青写真をもって臨むことは、安心を担保する鍵だと思います。
4.おわりに
「人生100年時代」。一昔前と違い、現代の女性には多くの選択肢があります。「長生きリスク」という言葉もあります。ただ、「長生き=リスク」と捉えるかどうかは、私たちのプランニングによると思いますし、自分にとっての長生きが、安心でポジティブな長生きであるよう造っていくことができるのではないかと思います。
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出典
https://www.cia.gov/the-world-factbook/field/life-expectancy-at-birth/country-comparison
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life10/03.html
https://www.who.int/data/gho/data/indicators/indicator-details/GHO/life-expectancy-at-birth-(years)
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_countries_by_life_expectancy
https://www.ipss.go.jp/ps-dotai/j/Dotai5-2/Nshc04gaiyo/Nshc04gaiyo.pdf
https://www.myri.co.jp/publication/myilw/pdf/myilw_no90_feature_3.pdf
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