アメリカの Social Security Tax/Medicare Tax は、日本では社会保障税に該当します。5 年未満等の短期駐在の場合は日米社会保障協定により、米国にて社会保障税の支払が免除されています。この社会保障協定の適応を受けるには、日本年金機構に申請して証明書を取得する必要があります。この証明書は 3 年まで延長が可能ですが、それ以上の延長は日米双方の協議が必要となり、大変難しくなります。

<日本の社会保険・在籍出向か移籍出向か>

  • 在籍出向は、日本の親会社との雇用関係が継続していますので被保険者資格が継続し、日本での社会保険料の負担が発生します。
  • 移籍出向の場合はこの親会社との雇用関係が終了しますので被保険者資格が喪失します。そうすると海外勤務期間は厚生年金が継続できませんので、国民保険の任意加入は将来の受給額を増やすオプションの一つとなります。

居住していた市町村に海外転出届を出していれば任意加入、出していなければ国民年金加入の義務が発生しますのでご注意ください。任意加入の条件は 65 歳未満です。

<日米社会保障協定>

この協定により、原則勤務地課税による年金保険料の 2 重払いという企業負担の増加と、駐在期間が短く受給資格を満たさないことによる米国での保険料掛け捨てという問題が解消されました。掛け捨てを防ぐためには「社会保障に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定 (Agreement between Japan and United States of America on Social Security)」  で定められた書類を、日本の年金機構事務センターから取り寄せて米国法人の源泉徴収担当部門で保管しておく必要があります。この書類は原則5年未満の駐在で発行されますが、場合によっては1~2年間(最長 3 年)の延長が可能です。

見本:https://www.nenkin.go.jp/service/shaho-kyotei/shikumi/shinseisho/usa/usa1.files/1-7.pdf

<二重加入の特例>

2012 年 3 月 1 日より駐在期間が 5 年を超え、米国のソーシャルキュリティに加入しなければならない場合は年金事務所に、 “ 厚生年金保険特例加入被保険者資格取得申請書 ” を提出することにより、日米双方で加入することが可能になりました。日米社会保障協定による申請書の一覧は下記のサイトをご参照ください。

https://www.nenkin.go.jp/service/shaho-kyotei/shikumi/shinseisho/usa/usa1.html

<年金加入の通算措置及び受給資格>

また協定発効後は、年金加入期間の通算(合算)が認められるようになりました。日米ともに基礎年金受給に必要な年金加入期間は 10 年です。 米国では最低 40 クオーター(1 クオーターが、日本の1四半期に相当するので、40 クオーターは 10 年となります)の加入期間が、ソーシャルセキュリティの受給条件ですが、2005 年の日米社会保障協定によって、日本での社会保険加入期間との通算が認められたことにより、最低 6 クオーター(1年半)の加入期間でも受給が可能になりました。

  • 例えば日本で 8 年勤務し、その後アメリカで 6 年勤務した場合、日本側では通算 14 年となり 10 年の資格を満たし、8 年分の年金を受給できることになります。
  • 一方、米国側でも通算 14 年となり 10 年の資格を満たし 6 年分のソーシャルセキュリティを受給できることになります。

米国勤務者の納めるソーシャルセキュリティ税は、その配偶者の受給(Spousal Benefits)にもつながります。つまり奥様が米国に居住されず、ご主人が単身赴任だった場合でも、奥様には配偶者受給資格があるということです。

但し、受給にはソーシャルセキュリティ番号が必要です。また、10 年以上の婚姻関係が必要で、もし離婚しても再婚していなければ、ご主人の年金を受け取る資格は維持されます。

<ソーシャルセキュリティ受給申請手続き>

日本在住の方は、日本の年金事務所を通して 3 か月前から申請可能ですが、米国大使館年金課あるいは米国年金局より、電話による資格審査があります。 米国在住の方は、最寄りのソーシャルセキュリティの事務所にて申請手続きをするか、オンライン又は電話(1-800-772-1213)での申請も可能です。

www.socialsecurity.gov/applyforbenefits

65 歳で Medicare/Medicaid を申請された方は、申請時にパスポート、グリーンカード、出生証明書、結婚証明書もしくは戸籍謄本の写しを提出しなければなりません。原本は返されますが、その時点で最低限必要な書類は全て電子処理され、ソーシャルセキュリティ事務所が入手した状態になります。

  • 満額支給年齢が 66 歳(Full Retirement Age、1960 年以降に生まれた方は 67 歳)とすると、62 歳から繰り上げ受給の場合 25%、63 歳からだと20%、64 歳からで3% の減額となります。
  • 逆に繰り下げ受給は 70 歳まで可能で、1943 年以降にお生まれの方は年 8% の増額率となります。

ご夫婦お二人とも米国でソーシャルセキュリティ税を払った場合、それぞれご自身の Retirement benefits が一つずつあり、配偶者としてのSpousal Benefits もありますので、お二人の老後資金のニーズに合わせて受給開始時期や Benefits の選択をすることになります。

<ソーシャルセキュリティ受給予想額>

ソーシャルセキュリティ事務所に行くと受給額をきちんと計算して教えてくれますが、オンライン(www.socialsecurity.gov/retire)でのシミュレーションも可能です。https://secure.ssa.gov/RIL/SicspView.actionのサイトでご自分のレコードを確認することも出来ます。

<棚ぼた防止条項 (Windfall Elimination Provision)

米国からソーシャルセキュリティを受給した場合、日本の年金受給に影響はありません。しかし日米両方から年金を受給する場合は、米国の年金受給額が減額される場合があります。

  • 2022年度の最高減額は $512 ですが、日本の年金受給額の 50% を超えることはありません。
  • 但し、一定額の所得レベルで 30 年以上お支払いの方には影響ありません。また国民年金は本来対象外ですが減額されてしまうケースもあるそうです。

<課税対象国>

日米租税条約により、ソーシャルセキュリティは居住国課税です。日本にお帰りになり日本居住となった場合には、日本で年金所得として申告することになります。

但し米国市民やグリーンカード保持者の方は米国でも申告義務がありますのでご注意ください。

<要注意>

米国市民ではない受給者が、米国外に 6カ月以上滞在すると支払がストップされますが、日米社会保障協定により日本人が日本に居住している場合は継続支給されます。但し、窓口の担当者によってはその知識を有せず、支給をとめられたケースもありますのでご注意ください。年

金加入の通算措置及び受給資格> また協定発効後は、年金加入期間の通算(合算)が認められるように

  • Social Security Tax

社会保障課税対象額の 2022年度の上限は $147,000、税率は 6.2% なので最高支払額は $9,114.00、自営業の方はこの2倍の$18,228 となります。

  • Medicare Tax

高齢者医療保険税率は 1.45% で、課税対象額の上限はありません。但し、下記の金額を超える収入がある方は 0.9% 追加税が加算され、超えた分に対しては 2.35% の源泉徴収がなされます。

  • 夫婦合算及び寡夫・寡婦申告 $250,000
  • 夫婦個別申告$125,000
  • 上記以外の独身者、他$200,000

上記申告身分にかかわらず、$200,000 を越えると追加税が源泉徴収されてしまいますが、確定申告に追加納税分は調整されます。夫婦個別申告の場合は、源泉徴収不足分を申告時に支払わなければなりませんので、ご注意ください。

尚、ソーシャルセキュリティ受給者のMedicare Tax は、日本に帰国後脱退できます。米国大使館連邦年金課などで手続きをしてください。

  • 介護保険

英語で Long Term Care Insurance と呼ばれる保険です。米国では社会保険としての介護保険は存在しません。したがって、介護保険は民間の保険業界により提供されています。これに対し、日本では公的な制度としての介護保険があります。この意味するところは、保険料が高く、ご自身の健康状態により加入できないケースも生じます。介護が必要になったときには、日本に帰国して、日本の介護保険を受けるなどの措置も計画しておかないといけないかもしれません。

  • 生命保険

アメリカの保険は日本の生命保険と比較すると安価であり、生活に必需な仕組みとしてアメリカ社会に広く浸透しています。退職時、相続税対策、そして貯蓄にもアメリかでは使われているようです。また、子供へのギフトとして、親がかけているケースも多いようです。後述する Cash Valueの増加で、貯蓄になります。生命保険は4つくらいの種類があります。顧客のニーズを満たすために発展してきた結果がこの 4 種類のようです。

  • Term Life(掛け捨て保険)
  • Whole Life (終身保険)
  • Universal Life(死亡保障と貯蓄の両方のメリットを享受できる保険)
  • Variable Life(投資的要素が強い保険)

<生命保険の税務>

保険金の受け取りは米国では無税です。さらにキャッシュバリューの増加分に対する税金は、保険金を受け取るまでは繰り延べされます。解約等の場合、投資の利益分はキャピタルゲインとしてではなく通常の税率で課税されます。しかし、収入が少なくなるリタイア後に受け取ればその税率は低くなります。

保険料の支払いは損金算入できません。 しかし、受け取りは居住国での税制により、課税されることがあります。日本に帰国される場合は、日本での課税ルールには注意を払う必要があります。

以上

記事の無断転載を禁じます。

CDHでは米国在住の個人の税務申告作成のサービスを行う傍ら、これらの人たちのさまざまな問題点、疑問点を解決、説明すべく日々努力しております。またこれらの人たちが抱える問題は日米の税法をはじめ、移民法、生命保険、リタイアメントのルールなど複雑、多岐にわたります。この記事は複雑な税法や、複雑な規制をできるだけ簡単にポイントだけを理解してもらう目的でお伝えしています。したがって例外もたくさんあります。また、お読みになる時点ではすでにルールが変更されているリスクもあります。最新のルールは、下記のWebsiteよりお問合せください。また実際にアクションを取る場合は、必ず税務・法務などの専門家と相談をしてください。

CDHのリソースは、https://www.cdhcpa.com/ja/personal-tax/ のページですべてアクセスできます。YouTube、Facebook、無料のオンラインでのコンサルテーション、遺産、永住権の放棄、出国税、Form 1040、税金シミュレーション、海外資産報告などの分野ごとのオンライン質問Form、月次のニュースレターのサインアップなどがございます。情報満載の過去の記事は、https://www.cdhcpa.com/ja/news/ からどうぞ。ぜひお気軽にご利用ください。また米国の税法に関して何かお困りの場合は下記のサイトから無慮相談を受け付けていますのでご利用ください。https://outlook.office365.com/owa/calendar/[email protected]/bookings/

私たちのクロスボーダーチームでは広く人材を募集しています。国際税務に興味のある方は是非ご連絡ください。