「トク」する永住権者の税務知識
この記事の目的は、米国の長期永住者がCovered Expatriateの判定を嫌ったために、永住権の放棄をせずに、米国市民権を取得して日本に永久帰国した場合に、考えないといけない点を列記してみました。
1. 背景
永住権を放棄すると「特定された出国者」(Covered Expatriate)になり、出国税を払ったり、適格年金を受け取る際に3割、強制的に米国の所得税を源泉されて、毎年フォーム8854をIRSに提出しないといけない。それなら米国籍を取得して、日本に住めば良いと考える人が最近増えています。
通常米国籍は、永住権を5年間以上維持していれば取得権利が生じます。Covered Expatriateに判定される人は、米国市民権を取得する権利もあるのです。
2. 日本の国籍法
国籍法十一条一項は「日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う」と定めています。つまり日本の国籍法は、外国の国籍を取得したときは、その人の日本の国籍を剥奪する権利があるのです。
しかし現実には、日本には日本国籍と外国国籍を持つ「重国籍」者が法務省の統計によれば90万人いるそうです。大阪なおみさん(テニスプレーヤー)は22歳までに日本人なのか、アメリカ人なのかを日本の国籍法に準拠するなら決めないといけません。蓮舫議員は、中華民国のパスポートを持っていたことが大きな問題となりました。現実は、日本政府は積極的に外国の国籍を剥奪するという行為はしていないように見えます。
しかし同時に、2018年には欧州在住の八名の日本人が、国籍法十一条一項を違憲無効な規定であると主張して、訴訟も起こしています。「国籍剥奪条項違憲訴訟」と言います。原告の中には、スイスか日本の旅券のどちらかを選ぶように外務省の書記官から迫られた人がいます。
果たして国籍法に違反しながら、重国籍者として日本に住むのが良いのか、大きく議論が分かれるところでしょう。
3.米国の税務申告義務
米国市民権を取得するのは、税務上の米国の居住者の立場の継続を意味します。すなわち税務申告の提出の義務があります。
読者の方によく聞かれるのは、「死ぬまで税務申告をしないといけないのか?」です。これは実は大変難しい質問なのです。
IRSのサイト(https://www.irs.gov/help/ita/do-i-need-to-file-a-tax-return)でご自分の情報を所得などの情報を入力すると税務申告を提出する義務があるか、ないかを判定してくれます。下記は2019年の1040のインストラクションから取りました。Page 9です。
あくまで一般的なルールと前置きしますが、ご自身の所得がソーシャルセキュリティが主で、その他の労務所得や、投資所得の合計が自分のファイリングステータスにある標準控除(Standard Deduction)の金額程度を越えなければ、税務申告をファイリングする必要はありません。例えば65歳以上で、所得が$13,850(2019年度)を越えない場合は必要ありません。
しかし、日本からの年金があったり、401(k) 、IRA、 AnnuityなどからDistributionを受けている場合は、おそらくこの標準控除の金額を超えてしまいますので米国での申告が必要になります。
さらに、日本に銀行口座や投資口座があり、合計で最高残高が1万ドルを越える場合は、FBARの提出義務があります。
つまり年収が少なくなったからと言って、簡単に税務申告の提出義務がなくなったと自分で判断するのは、大変難しく、危険なことなのです。
80歳を過ぎても、ご自身でこれらの手続きができる人はきっと限られてしまうでしょう。自分の能力が税務申告提出の労力に毎年耐えられるか否かが決め手になるでしょう。
4. 米国市民権の放棄手続き
米国大使館や領事館で手続きをします。一度の面接ではなく、複数の面接を経て市民権を放棄できます。現在その費用は、$2,350だそうです。もちろん記入しないといけないフォームもあります。さらに、一度放棄した市民権を取り戻すことは基本的にできません。最終的に審査が終了するとCertificate of Loss of Nationalityを貰えるそうです。
面接でどんな質問を受けて、どんな審査があるかは筆者はわかりません。もしその審査で否認された場合の影響についてもなかなかわかりません。
5. 最後に
この記事で言及していない点は、重国籍者や、外国籍者に対する日本の税制を含むそのたの法律です。こちらも忘れないでください。
CDHでは米国在住の個人の税務申告作成のサービスを行う傍ら、これらの人たちのさまざまな問題点、疑問点を解決、説明すべく日々努力しております。またこれらの人たちが抱える問題は日米の税法をはじめ、移民法、生命保険、リタイアメントのルールなど複雑、多岐にわたります。
この記事は複雑な税法や、複雑な規制をできるだけ簡単にポイントだけを理解してもらう目的でお伝えしています。したがって例外もたくさんあります。実際にアクションを取る場合は、必ず税務・法務などの専門家と相談をしてください。
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