グリーンカード保持者や米国籍保持者であるあなたが、日本の親から米国内外の資産を相続した場合、米国の税法に基づいて正確な税務申告を行う必要があります。まず、米国の永住権者・米国籍者は、全世界の所得と資産に対して米国の税金を支払う責任があります。これは、所得税のみならず遺産税にも適用されます。また、日本側で相続税を支払ったのでアメリカ側では何もすることはない思われがちですが、必ずしもそうではありません。相続が起こった際の米国側の一連の税務申告について、主な手続きと注意点を紹介します。
1.Form 3520の提出
Form 3520(Annual Return to Report Transactions with Foreign Trusts and Receipt of Certain Foreign Gifts)は、米国外からの100,000ドル以上の贈与や遺産を受けた場合、もらったあなたがその情報をIRSに報告するためのフォームです。例えば、グリーンカード保持者や米国籍者が日本人の親御さんから市場価格5000万円の日本の賃貸不動産(年間家賃収入180万円)を相続したとしましょう。その場合、5000万円は100,000ドル相当以上になりますので、Form 3520の提出が必要です。Form 3520自体には税金が課されませんが、適切に申告しなかった場合、罰金が課される可能性があります。この罰金は未申告の金額の25%に上ることがありますので、適切な情報を期限内に提出することは非常に重要です。
また、相続物件の家賃収入180万円は、所得税申告書で申告する義務があります。この家賃があなたの日本の銀行口座に入金されているのなら、その口座をFBAR(Report of Foreign Bank and Financial Accounts)やFATCA(Foreign Account Tax Compliance Act)にて報告対象かもしれません。FBAR未申告に対する罰金は一年ごとに$10,000、もしその未申告が意図的であったと判断されると、未申告金額の50%あるいは$100,000のいずれか高いほうの罰金、さらに厳しい罰則として、刑事罰の可能性があります。米国外金融資産報告の申告期限も通常の税務申告期限と同日ですので、あわてないよう、毎年の銀行残高チェックを忘れないようにしましょう。
上記はオフショア、つまり米国外にある資産に対しての報告義務を述べました。
2.Form 706-NAの提出:
米国内の財産相続に関しては、親が米国内に$60,000以上の財産を持っていた場合、Form 706-NA(米国非居住者のための遺産税申告書、United States Estate and Generation-Skipping Transfer Tax Return, Estate of nonresident not a citizen of the United States)の提出が求められます。
このフォームは、遺産の実行者・管理者(あなた)によって記入・提出され、亡くなった人(親)が米国内に所有していた財産に対し、適切な遺産税の計算と支払いを行うために使用されます。期限は死亡日から9か月以内ですので、日本側の相続手続きと同時進行ですすめなくてはなりません。申告が間に合いそうもない場合は、Form 4768 (Application for Extension of Time To File a Return and/or Pay U.S. Estate and Generation-Skipping Transfer Taxes)を提出し、6か月の延長をリクエストすることができます。Form 706-NAが速やかに提出されない場合、または税金の支払いが当初の期日までに完了されない場合、遺産に対して罰金が課せられますので早めのアクションを心掛けてください。
このForm 706-NAの提出意図は、次に述べるTransfer Certificate(移転証明書) を発行してもらうこと、つまり、親の財産をあなたへ転送するための許可書をIRSから発行してもらうことです。
3. Transfer Certificateの発行:
Form 706-NAの手続き完了後、IRSは「Transfer Certificate」(移転証明書)をあなたに発行します。これは、米国の資産の所有権を法的に移転させるための文書であり、証明書となります。この証明書を、あなたは親の死亡により凍結されている米国内の銀行や証券会社へ提出して、財産を遺産管理人であるあなたへ移転してもらうよう手続きをとるのです。Form 706-NAの提出からTransfer Certificateを受け取るまでに数か月を要しますので、資産移転が完了するには1年以上要する場合も稀ではありません。
4.まとめ
これらの手続きは連邦レベルで行われますが、一部の州では州レベルでの遺産税または相続税を課しています。そのため、具体的な手続きは、遺産がどの州に位置しているかによって異なります。また、グリーンカードを放棄して日本への完全帰国を計画する際は、上記のような手続きの複雑さを考慮し、アメリカにある財産をずっとそのままにしておくべきか等の検討が必要です。家族構成、家族のビザステータス、家族の居住地などの状況に応じて対応は異なりますので、税務専門家と相談し、適切なアクションをお取りください。
参考文献
https://www.irs.gov/forms-pubs/about-form-3520
https://www.irs.gov/forms-pubs/about-form-706-na
https://www.irs.gov/forms-pubs/about-form-4768
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